歩道橋

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古い歩道橋を登ってみた。久しぶりだ、歩道橋を渡るのは。曇天の昼下がりに錆びた手すりの歩道橋に上がると人がいる。橋の上でテーブルを前に座っている。近づくと変な格好の老人、映画とかで見る占い師、易者だ。半目に閉じている易者に声をかけてみた。こんなところで易をみるんですか?
観てあげよう、と返事があった。未来は観ない、過去を観るのみ。と。
易者は大きな虫眼鏡みたいなのを私に向けた。そして、さあ、みなさいと私の背後を指す。
言われた先を歩道橋の手すり越しに見る。街が広がり道路が伸びて、並木が色づいている。とぼとぼ歩く若者の姿。すぐにわかった。あれは私だ。数十年前の私だ。職もなく何をしていいのかわからず街をうろついていた頃の私が歩いてくる。歩道橋の下を通り過ぎる。反対側をみようと振り向くと易者の姿はない。テーブルもなく、風に運ばれたプラタナスの枯れ葉が落ちている。歩道橋の向こう側は眩しくてみえない。
その他
公開:25/09/29 11:06

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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