出世翼（しゅっせよく）

「俺が若い頃は皆、その背中に出世翼が生えていたもんよ」と父が言う。
出世翼とは、より高みを目指す者の出世欲が背中に具現化したものだそうだ。ワールドワイドで活躍する者は皆、出世翼が生えているらしい。
上着を脱ぐ父。その背中には折れた翼の残骸が残っていた。
「俺は高みを目指す戦いに負け、地に落ちた。地に足の着いた生き方しかできなくなった」
寂しそうに笑う父。だけど、私はそれの何がいけないのか分からない。
地に足の着いた仕事。上等じゃないか。高みを目指し、大けがを負うよりよっぽどいい。
「チャレンジ精神がないなぁ…今は出世したくない若者も多いと聞くし、これも時代か…」
そう呟いてテレビに目を向ける父。
『自称ユーチューバー。「注目を集めたかった」と迷惑行為を謝罪』
ニュースを見て、ため息を吐く。
「有名配信者になりたいってのも出世欲か…それで太陽に近づきすぎて、出世翼が炎上しちゃおしまいだな」