はじめての小路

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ふらりと入ってみた。はじめての小路。みあげると電線が二、三本。両側に静かな住宅の壁。歩くと突き当たり。そこを右に曲がる。角から三軒目の家の庭木の濃い影が路面に落ちている。ふと、ここに来たことがあると思った。はじめてのはずだが、誰かを訪れたときだろうか。この狭い小路のみちの温もりに記憶がある。小さかったとき、親に連れられてこの路を歩いたのか。そう思うと、住宅の壁や庭木のがなんとなく懐かしいものに思えてきた。みあげる電線の揺れる様子さえも。そして人気のない静かな空気感。建物の間の狭い暗がりに見覚えがある。隙間のような路に入ってみた。広い道路に出るかと思われたがその手前にコンクリートの建物がある。小さなマンションか。裏口に錆びた扉が半開きになっている。ふらりと入ってみた。通路を抜けるとガラスドアの向こうにエントランスが見える。あ、ここは私が住むマンションだ。エレベーターにのって帰ろう。
その他
公開:25/09/28 08:50

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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