お久しぶりです

「妻を呼び出して下さい」
イタコの私は慣れた手つきで口寄せを始める。
奥さんの個人情報？もうすっかり覚えてしまったさ。
この男、何度もここを訪れては「妻の霊を呼び出してくれ」と依頼してくる。
最近では私をわざわざ指名してくるから慣れたものだ。
正直、飽き飽きしているがこちらも仕事である以上、手は抜けない。
『秀明さん…』
私の口から男性の名前を呼ぶ声。よしよし。今回も口寄せ成功だ。あとはこのまま少し話をさせて、折を見て帰ってもらおう。
私の体がすっと立ち上がる。男性の手を取り、外に出る。
『外の空気なんて、本当に久しぶり』
「まだまだこれから、たくさんの久しぶりが待っているよ」
そこではっと気が付いた。奥さん、私の体を奪うつもりだ。そうはいくかと抵抗する。
『無駄よ。私、今日の為にずっとあなたの体に私を馴染ませていたんだから』
その一言は、私に幽霊の恐ろしさを久しぶりに思い出させた。