お久しぶりです

若い頃は頭を下げるのが仕事だった。
仕事で失敗して、怒られて、頭を下げる。仕事を教えてもらって、認められて、頭を下げる。
頭を下げる。たったこれだけの事に、どれ程の意味が込められているか…
だから私は相手が謝罪や頼み事があって訪れた時、それを拒まない。
その下げた頭に何が込められているか、見極める為だ。
同時に私は退屈を感じていた。私が最後に頭を下げたのはいつだ？
久しぶりに頭を下げたい。そう思っていたある日、私は事故に遭った猫と出会った。
動物病院の先生に、この子を助けてくれと頭を下げた。
一命を取り留めたその猫を飼いたいと家族に頭を下げた。
久しぶりに頭を下げて、私はある事に気が付いた。
若い頃は自分の為に頭を下げた。歳を取ると他人の為に頭を下げられるようになった。
そうか…私は誰か役に立つ為に頭を下げたかったんだ…
私は猫に頭を下げる。ありがとう、私の本当の気持ちを気付かせてくれて。