お久しブリの郷愁焼き
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商店街の魚屋の店先に、懐かしい魚が並んでいた。
「お久しブリだわ。昔好きだったな」
お久しブリ。記憶の海を泳ぐ回想魚で、時折ぽつりと浮上しては、過去のあれこれを振り返らせる。昨今のレトロブームの潮流に乗って流れ着いたらしい。
亡き母がよく焼いてくれた。たまには心ゆくまで振り返ってみようと、切り身を買って帰宅した。
キッチンに立ち、まな板の上のお久しブリを前に、軽く深呼吸。まぶたの裏の面影と対話しつつ、切り身に涙塩を振る。
ほどよく湿っぽくなったお久しブリをこんがりと焼きつけ、しん味醂に思い出汁(だし)、郷愁味噌の合わせダレでこっくりセピア色に煮からめる。母直伝、お久しブリの郷愁焼きの完成だ。
「いただきます」
写真に向かって合掌し、おもむろに箸を入れる。
「そうそう、この味。お久しぶり」
ノスタルジックな香りにツンと鼻をくすぐられながら、甘酸っぱくもほろ苦い、後引く味わいを噛みしめた。
「お久しブリだわ。昔好きだったな」
お久しブリ。記憶の海を泳ぐ回想魚で、時折ぽつりと浮上しては、過去のあれこれを振り返らせる。昨今のレトロブームの潮流に乗って流れ着いたらしい。
亡き母がよく焼いてくれた。たまには心ゆくまで振り返ってみようと、切り身を買って帰宅した。
キッチンに立ち、まな板の上のお久しブリを前に、軽く深呼吸。まぶたの裏の面影と対話しつつ、切り身に涙塩を振る。
ほどよく湿っぽくなったお久しブリをこんがりと焼きつけ、しん味醂に思い出汁(だし)、郷愁味噌の合わせダレでこっくりセピア色に煮からめる。母直伝、お久しブリの郷愁焼きの完成だ。
「いただきます」
写真に向かって合掌し、おもむろに箸を入れる。
「そうそう、この味。お久しぶり」
ノスタルジックな香りにツンと鼻をくすぐられながら、甘酸っぱくもほろ苦い、後引く味わいを噛みしめた。
その他
公開:25/09/15 18:31
ラジオ『月の音色』
月の文学館
テーマ:お久しぶりです
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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