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《森鷗外の小説「青年」には「割合に幅の広い此坂はSの字をぞんざいに書いたように屈曲してついている」と書いてある。それからここはS坂と呼ばれた》と説明される坂があるという。明治四十三年、鷗外は観潮楼に住んでいた。東京は根津のあたりだとか。
彼女は坂が好き。坂マニアだ。S坂のことを調べてきてぜひ行ってみたいという。S坂で待ち合わせることにした。
当日、ぼくは坂の上からくだる。脚はしぜんにS字をたどる。なるほど。S字のエのあたりか。左に曲がった坂を次は右に曲がる。もう着くか、と思ったら坂は続く。また左に曲がる。そして右に。また左、右と何度も曲がりながら坂を降りてゆく。やめてくれよ。膝が笑うのを通り越してガクガクふるえるぜ。なんという坂だ。ほんとうに鷗外も明治の青年も歩いたのか。
やっと坂の下が見えてきた。彼女がぽつんと立っている。
「ごめんなさい。坂をまちがえてしまったみたい。ここ、蛇坂だって」
彼女は坂が好き。坂マニアだ。S坂のことを調べてきてぜひ行ってみたいという。S坂で待ち合わせることにした。
当日、ぼくは坂の上からくだる。脚はしぜんにS字をたどる。なるほど。S字のエのあたりか。左に曲がった坂を次は右に曲がる。もう着くか、と思ったら坂は続く。また左に曲がる。そして右に。また左、右と何度も曲がりながら坂を降りてゆく。やめてくれよ。膝が笑うのを通り越してガクガクふるえるぜ。なんという坂だ。ほんとうに鷗外も明治の青年も歩いたのか。
やっと坂の下が見えてきた。彼女がぽつんと立っている。
「ごめんなさい。坂をまちがえてしまったみたい。ここ、蛇坂だって」
その他
公開:25/09/13 11:48
2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。
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