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「夕方は、浴衣を着る時間なんですよ。ユウガタの音が縮まって、ユカタになったんです」
駅のベンチ。蝉しぐれと、遠くから聞こえる祭囃子。隣に座った見知らぬ女が、そう言った。品のいい藤色の浴衣に、金魚の帯。
「……そんな由来でしたっけ?」
「はい」
「でも、それだと浴衣は夏の風物詩じゃなくなりますね。夕方は季節を問わず、毎日やってきますし」
僕がそう言うと、彼女は目を細めた。
「いいえ。昔はね、夕方は夏にしか現れない時間だったんですよ。ああ、そろそろ夜に飲まれちゃう」
ふいに風が通りすぎ、蝉しぐれがぴたりと止んだ。横を向くと、もう彼女の姿はなかった。
駅のベンチ。蝉しぐれと、遠くから聞こえる祭囃子。隣に座った見知らぬ女が、そう言った。品のいい藤色の浴衣に、金魚の帯。
「……そんな由来でしたっけ?」
「はい」
「でも、それだと浴衣は夏の風物詩じゃなくなりますね。夕方は季節を問わず、毎日やってきますし」
僕がそう言うと、彼女は目を細めた。
「いいえ。昔はね、夕方は夏にしか現れない時間だったんですよ。ああ、そろそろ夜に飲まれちゃう」
ふいに風が通りすぎ、蝉しぐれがぴたりと止んだ。横を向くと、もう彼女の姿はなかった。
青春
公開:25/09/12 09:27
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