ご安全に

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盗みに入った農家に金目のものはなかった。一万出して買ったリストには、確かにタンス預金があるはずだと書かれていたのに。
「……家主と鉢合わせになって目出し帽は剥がされるし、まったくひどい目にあったな……」
無駄に付けられた防犯カメラに無様な姿が映っているのを考えたらアパートに帰ることはできない。俺は生家のある山あいの村に向かった。ほとぼりが冷めるまでしばらく山に潜伏しようと考えたのだ。食料は……まぁ、ぜいたくを言わなければなんとでもなるはずだ。
限界集落と化した故郷を横目に眺めながら山を分け入り洞窟に入った。すると突然うしろから声をかけられた。
「ご安全に!」
驚いて振り返ると、マジシャンのような格好をした爺さんが笑っていた。
「なにが『ご安全に』だ! この野郎!」
俺は腹を立てながら爺さんにつかみかかろうとしたが、両手は虚しく宙を切った。気づけばかなりの高度から落下していた。
ミステリー・推理
公開:25/09/11 08:38

いちいおと( japan )

☆やコメントありがとうございます✨

作品のイラストはibisPaintを使っています。

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