今年からなくなった世界史事典

　今年から世界史事典が無駄だから無くそうとなった。世界中で。
　何故なら辞典のページに、独裁者に不都合な事実ばかりが勝手に浮き上がる現象が起きるようになったのだ。
　生まれた時にはすでに独裁の時代だった若い世代は疑うことを知らない。そんな何も知らない人々に、事典は真実や猜疑心を植え付ける……はずだった。だが、スマホ主流の現在わざわざ事典を見る若者などなかなかいないというのに。
　いや、見るものはいる。独裁者自身が。振り返ると彼の影の下には事典がころがり、彼を見つめている。