あたためますか？

私が小学生の時に、母は病気で亡くなった。
母は亡くなる前に「お母さんはあなたの心の中にお引越しするの」と言った。
だから、母が亡くなった後も寂しくはなかった。胸に手を当てれば、そこに母がいるのだと信じていたから。
私は不安になると、いつも自身の心に触れる。心の中の母に話しかける。それだけで心が軽くなる。
私はいつも温かな心でいるよう心掛けた。
母のような女性になりたいから。それは建前だ。
母は寒がりだった。私の心が冷え切ってしまうと、母は温かさを求めてどこかに行ってしまうかもしれない。
それが怖くて、無理にでも温かな心でいようと頑張った時もある。
そんな私の心に、彼が触れてくれた。無理をしなくていいと、自身の心の温かさを私に分けてくれた。
「お義母さん。これからは僕が、彼女を支えていきます」
彼からのプロポーズ。
心がより一層温かくなるのを感じたと同時に、私の心から母が旅立つ気配も感じた。