名画でショート075『国会議事堂の炎』(ウィリアム・ターナー)

「英国国会議事堂が火の海だ」と聞いたとき、ターナーは思わず自宅を飛び出した。
紳士たちが慌てめくなかで、炎の勢いは減じることはなく、人間活動をあざ笑うかのように空に向かって白煙を巻き上げ続けている。川面に炎が映りこむ。
ターナーは、それらのすべてを、色彩として画面に落とし込む。
火事はなぜこれほどまでに人々を興奮させるのか。炎の魔術だろうか。それとも人間の奥底に潜む破壊への熱望だろうか。
だが、ターナーは気が付いていた。巨大な炎が折り出す色彩が、暗闇を切り裂く光が、人間が積み上げてきたものを破壊する美しさが、人間を興奮させるのだと。
ターナーは興奮をキャンバスにぶつけるべく、絵筆を握った。