地底空間

地下鉄に揺られていた。夜の遅い時間に乗客は少ない。車窓に引く光の筋を見ながらイヤホンで音楽を聞いていた。すると雑音まじりに話す声が聞こえる。「誰？」「混線です。こちら地底」「何！」「地底回線が耳に入ってしまいました」「こちらの思うことは？」「骨伝導イヤホンから伝わります」「本当に地底？」「はい地底の住人です」「まさか」「貴方は地上に私たちは地中に住む、ということ」「で、混線？」「地下鉄ですよ。地下鉄は半分は地上の利用。半分は地底が活用します」「全然知らないよ」「地下鉄はじつは両者が交差する空間。地底人も多く利用します。ニューヨーク、パリ、ロンドンでも。地底新幹線で外国にすぐに行けますから」「へえ、そうなんだ」「地下鉄の暗い空間ってどこでも似ているでしょ」「確かに」窓の外を見ると地下鉄が異国の線につながって異国の地下を走っている気がした。「いつまでも地上に出ない地底空間へ一度来てください」