幽霊付き自転車

私が子どもの頃、自転車には補助輪ではなく幽霊が付いているのが当たり前だった。
幼い時分、幽霊は私が自転車に乗ると必ず後ろを押さえてくれていた。だからスピードは出せなかった。
出そうものなら幽霊が手を放してしまい、私はバランスを崩して倒れてしまっていた。
自分のせいなのに幽霊のせいにして、よく八つ当たりしたものだ。
だけど徐々に一人で自転車に乗れるようになると、幽霊はそっと自転車から手を放す。
放した手で、私が一人で自転車に乗れたのを見て拍手を送ってくれる。
私はこの時ほど、幽霊の顔が見れたのなら…と、思ったことはない。霊感があればと思ったことはない。

大人になった私はそれを母に話す。
「幽霊の写真、あるわよ」
近所の心霊写真家のおじさんが撮ってくれたものがあるという。
その幽霊の写真を見て、思わず笑ってしまった。
だってその幽霊。私と、母と、祖母の自転車の後ろには必ず写っていたのだから。