あたためますか？

山で釣ったばかりの魚に『あたためますか？』と聞かれた。
そんなわけない。魚は喋らない。勘違いだと思い込もうとした。
『焼いたり、蒸したり、煮たり…あたためますか？』
勘違いでも聞き間違いでもなかった。魚が私に聞いてくる。
「塩焼きにするつもりです」
律儀に答える私にホッとした様子の魚。
『それなら問題ないです。私には寄生虫がいて、刺身のような生食ならお断りでした」
釣られた以上、美味しく安全に食べられたいそうだ。
帰宅後。塩焼きの準備していると、お隣さんがやってきて「その魚は生が一番美味い！生で食え！」と命令してきた。
私が拒否すると、お隣さんは魚を掴むや丸かじり。「どうだ！」と自慢げだが、私はドン引きだ。
その反応の薄さに顔を赤くするお隣さん。
だがすぐに青くなるや魚みたく口をパクパクさせて「寒い…寒い…」と震える。
私が「あたためますか？」と聞くと、ぎょろっとした目を向け何度も頷いた。