あたためますか？

たぶん、癖なのだろう。祖父は湯飲みやお茶碗を手に持つと、それを優しく撫でる。
それを見て、優しく頭を撫でられていた幼い頃を思い出す。
久しぶりに頭を撫でてもらいたい。そう言ったら、祖父はきっと笑うだろう。
子どもっぽいと思われたくなくて、言い出せないでいる。
そんな私に、知獣の狸がいいものがあるぞと言って葉っぱを１枚くれた。
それを頭に乗せると、どろん。私は茶釜に化けていた。
「湯呑やお茶碗だとキスされるかもしれないからな」と茶化す狸。
でも、その心遣いがありがたい。
早速、私に化けた狸が祖父に茶釜となった私を渡す。
祖父は私を膝の上に乗せ、優しく撫でてくれる。
ふっ…と祖父が笑った。
「頭撫でて欲しいなら素直にそう言え。そうでないと、うっかりに火かけてあたためてしまうぞ」
バレた恥ずかしさから、茶釜の姿のまま逃げ出す私。
祖父の癖に！とやり場のない怒りを抱えた私の頭は沸騰しきっていた。