カエルの合唱

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山里の小さな村では、猛暑が続き水田はひび割れ、川も細い糸のようになっていた。
畑の隅で、一匹の蛙が空を見上げてため息を点いている。夏は俺の出番なのにな一滴の雨も降らないし歌を歌うどころではない。喉は乾き、鳴き声さえ出ない。

その夜、蛙は夢を見た。空の雲たちが輪になって踊り、楽しそうに笑っている。なぜ雨を降らせないのかと尋ねると、雲たちは答えた、地上から楽しい歌が聞こえないからだよ。

目を覚ました蛙は、かすれ声で微かにケロケロと鳴いた。声は小さかったけれど、やがて別の蛙がこれに応え、次々に合唱が広がり大きく聞こえる様になった。
すると、空の端に黒い雲がゆっくり現れ、重たく垂れ下がった。
やがて大粒の雨が地を打ち、見る間に村も畑も待望の雨水で潤った。

蛙は水たまりの中で跳ねながら、夢が現実に変わったことを知って嬉しくなった。
雨を呼べるのは、空ではなく地上の楽しむ仲間の声だった。
ファンタジー
公開:25/08/23 08:32

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