父に報告

数年ぶりに実家に帰ってきた。
これまで連絡の一つも寄こさなかった私。母が亡くなった時も葬式にさえ出なかった。
そんな親不孝な私を家にあげてくれた父。
仏壇に線香をあげ、この数年間、何をしていたか父に話そうとした。
「…お前。辛そうな顔をしているぞ。話したくなければ、話さんでいい」
私は父の言葉に甘えた。ありがとう、と告げ、実家暮らしを始めた。

その父が先日、亡くなった。一人ぼっちになってしまった私。
寂しさから、父の墓石にあの時話せなかった数年間を報告した。
バカをやって警察のお世話になっていた私。父はそれを知っている様子ではなかった。
「人様に迷惑をかけるな」と、父からは口酸っぱく言われていた。それに反発するように家を飛び出した。
こんな私を叱ってほしかった。夢でもいいから出てきて欲しかった。
夏の風が、父の手によく似た感触で私の頭を優しく撫でる。
父が夢に出てくる事はやはりなかった。