誰も通らない道

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それほど広くなくて、きれいに整備されたこの道の人通りは少ない。夕方には誰も通らない。ひっそりと陽がかたむくと住居の植え込みの茂みにばさばさと音がして、見慣れぬ影が路面に落ちる。影は鳥かごのかたちである。そんなものはどこにもみあたらないのに、影だけが、鳥かごの細い針金の一本一本までくっきりと路面に落ちる。鳥かごの小さな扉が開いている。息を止めてみていると、まもなくやってくるのは鳥の影である。音はなく一羽の鳥の影が、鳥かごの扉から入ってしまう。鳥がなかに入ると影の扉がしまる。道には誰も通らない。そのうち鳥かごの影が消える、というか日が暮れて路面全体が薄い闇に包まれ、鳥かごも鳥も闇に吸われる。
誰も通らない道なのになぜこんな話ができるかって?じつは道の動画をネットでみたのだ。監視カメラか何かの映像だろう。その道はどこにあるのか、動画は触れない。人がみにくると影が落ちなくなるからだという。
その他
公開:25/08/20 17:43

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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