あたためますか？

母が病気で亡くなった。その遺体は眠っているようにしか見えない。死んだなんて信じられない。
これはきっと悪い冗談だ。明日になれば母は目を覚まし、いつものように「おはよう」と言ってくれるに違いない。
そんな、ありもしない妄想に涙が溢れる。
「なぁーご」
私を慰めるようにタマが声をかけてきた。
タマも母の死を受け入れられないのだろう。いつもみたく母に寄り添っては、その体を温めようとする。
そうだ。悲しいのは私だけじゃない。だから私はタマの好きなようにさせた。
どうかタマの温もりが、少しでも母に伝わりますようにと願いを込めて。

翌朝、母に寄り添っていたタマが冷たくなっていた。母と一緒に旅立ってしまったようだ。
悲しみに暮れる私。その時だ。
母がゆっくりと目を開く。
これは夢？母の手にそっと触れる。そこには温かみがあった。命の鼓動を感じた。
母が口を開く。私はいつもの一言を期待した。
「なぁーご」