電線音譜

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曇り日に田舎の道を歩いていた。周りは田んぼと低い山。電柱が一本。電柱の周りに交錯するように電線が集まる。平行な電線にカラスが何羽もやってきた。電線にとまっては飛んでまたとまる。
電線のカラスを見ていると、知らない男がいつのまにか隣にいる。彼も電線を見ている。そしてハミングを始めた。しっかりした音程のハミングは口笛に変わった。フルートみたいに心地よく口笛を続ける。
聞いているうちに口笛の調べが電線のカラスと同期していると思った。というか、電線は五本ある。カラスは音符で電線は音譜。彼は電線の音譜を読み取って口笛を吹いている!
カラスが止まると音が鳴り、飛び立つと音が消える。電線は風に震えてカラスの出入りはますます速くなる。男の口笛が激しいリズムで鳴る。知らないがリストの超絶技巧曲か。
そして口笛がぱたりと止んだ。カラスは音楽とは無関係とばかりに曇天にとんで行った。振り返ると男の姿もなかった。
その他
公開:25/08/15 09:26

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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