上京(彼女の場合)

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 私の門出について、唯一欠点があるとしたらこの天候だろう。分厚い雲から注ぐ雨は徐々に勢いを増すようだった。窓の外側に張り付いて流れる水滴がせっかくの景色を歪ませていた。
 高い建物への憧憬は無かったが、こうやって窓の外のビル群を眺めると自身の気持ちが高揚していくのを感じる。身体が妙な感じに震えている。心地いい震えだった。
 私は3分の1くらい残った飲料を一気に飲み干した。
 アナウンスが車内に響く。もうすぐ到着らしい。
 私は荷物を下ろすために即座に立ち上がり、荷台に手をかける。荷物の重みが私の東京に対する期待の重みのように感じたのは気のせいだろうか。そして、その時どこからか視線を感じたのも気のせいだったのだろうか。
 私は扉が開くと同時に、ホームに靴音を鳴らした。まだ視線が続いている気がしたが、私は後ろを振り返らなかった。
青春
公開:25/08/18 13:06
更新:25/08/18 22:03

おいしい舞茸( きょーと )

舞茸です。
舞茸そのものです。

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