飛龍頭（ひりょうず）

がんもどきを関西では「ひろうす」と言う。飛龍頭がなまったのだろう。

京都に住む早織の得意料理はおでん。夏でもよくおでんを作る。近くのすぐ下の妹の日和が家にきて夕飯を食べると言うのでおでんを仕込んだ。そこへ前ぶれもなしに東京から一番下の妹の弥生がやってきた。日和は夫婦二人暮らし、弥生は単身、東京でIT会社の従業員ではなく社長とビジネスパートナーだとか。
三人でおでんを囲んだ。
「ほんまに腹たつ」
「なに、弥生」
「また男に騙されたん？」
「騙されてないけど」
「あの社長さん？」
「ふん」
「イケメンで金持ちやしなあ、社長って」
「ところがよ、女くせ悪いねん」
「さっさと別れたらよろし」
「でもビジネスパートナーやし」
「かっこうつけて」
「仕事も面白いんよ、東京は」
「ほな我慢するんやね」
「それはイヤ、もう、このひろうす、彼の顔そっくり」
弥生はよく煮えたひろうすをパクリと一口で食べた。