村を出て

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バーのカウンターで水割りを飲んでいた。久しぶりだ。村にいた頃はよく飲んだものだ。村の人か他の村の人と。あの頃はよく人と会って話をしたりした。たいてい村関係の人たちと。村を出てから人と会うことが減った。
隣に同じくらいの年格好の客。声をかけた。
「村におられました?」
「ええ、**村」
「大きい村ですね。私は小さな・・村」
「いい村ですね」
「近くの村で、会っていたかも」
「電車に乗ると村のことを思います」
「村には電車で通っていましたからね」
「満員電車に詰め込まれて」
「村は面白かったけれど、忙しい」
「退屈なことも、たとえば会議とか」
「ええ、みんな苦虫を噛みつぶした顔で」
「村は、嫌ではないが、いつまでもいるところではないですね」
「同感です。村を出て実感しました」
「村長さんもきっと同じでしょう」
村は懐かしいが、もう十分だな。彼もそう思ったようだ。
(村って、カイシャのことです)
その他
公開:25/08/12 16:51

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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