「殺さないで」から始まる十二支考 子年

4
4

「殺さないで」
 とネズミは言った。
「殺さないさ」
 と僕は答えた。
 多分、僕が殺さなくても誰かが殺すだろうし、殺しているだろうし、殺され続けるだろう。けれど、今、目の前にいるネズミは、他のところにいるどのネズミよりも安全だと思った。
「なぜ、殺さないの」
 とネズミは言った。
「殺す理由がないし、殺したくないからさ」
 と僕は答えた。
 しかし、ネズミであるということは、生き続けるに値することだろうか、と僕は思った。いつでも腹を空かせていて臆病に逃げ回って無力で、何かを成し遂げるという目標がない命だ。ネズミは忙しいだろうか。それとも退屈しているだろうか。
「殺せばいいのに」
 とネズミは言った。
「嫌だ」
 と僕は答えた。
 するとネズミは黙って食卓のテーブルの下へ駆けて行き、壁と床の隙間に身体をねじ込んだ。
 尻尾の先まで闇に消えた後、天井裏から、けたたましい笑い声が響いた。 
ファンタジー
公開:26/01/29 22:18
十二支考

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容