二寸
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和紙の角は二寸ほど千切れ去っていた。早鐘の鳴り続く中、各々近くの宿場や水屋に集い、急ぎ米や水を上階へ運ぶ。尾比叡の連なる峰から流れ出る急流が、十尺はあろう水門を易々と飛び越える。山裾にはえる茅葺の屋根群をぬくっと持ち上げると、一つ、また一つと運び流してゆく。塚越で下駄屋を営む桑原の家などは、麻縄を用いて樫の木と梁とを繋ぎ止めていたが、川べりを見つめる眼差しは定まらない。秋暁の冷気を凌ぎ、峰に挟まる日の光を汲もうと人々が寄り合ってきた。引き揚げの鐘を打つ様を見ようと窓辺に視線をやると、肌脱ぎの少年が、泥に沈む藁をひょいと踏みながら粟飯を運ぶ姿が見えた。
その他
公開:26/01/24 00:00
更新:26/01/26 00:08
更新:26/01/26 00:08
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