ひらかない扉

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彼女は誰にでも優しかった。
困っている人にそっと寄り添い、空気を乱さず、場を和ませる。
その夜、冬の駅のホームで、彼女のポケットだけが小さく震えていた。

彼女は片足だけで立ったまま、
ポケットの内側に触れないように指を浮かせている。
その手は、何かを避けるような、見えない棘に触れないような形をしていた。
近づくほど、空気の密度が変わる気がした。

一瞬だけ、彼女の掌が露わになる。
そこにあった鍵は、影を持っていなかった。
次の瞬間、鍵は消えていた。
ただ、金属が落ちたような硬質な響きだけが、地面に残った。

発車していく電車の窓に、
彼女は映らなかった。
影だけがホームに残り、じっと立っていた。
その他
公開:26/01/18 07:12

問い屋

その違和感を、
まだ持ったままの人へ。
問いの続きを、ここにまとめています。

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