おしゃべりな待ち針

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洋裁店を営む私の元に、「スーツを一着仕立ててほしい」と注文が入った。
布を裁断し終えたら、彼女たちの出番だ。
使い古した裁縫箱を開けると、彼女たちがわっと一斉に喋り出した。
「もう、待ちくたびれたわよ」
「今日はどんな素材なのかしら? 柔らかい生地だといいんだけど」
「そうね、この間のは硬くてゴワゴワで最低だったわ」

彼女たちは、祖母の代から受け継がれてきた待ち針だ。
滑りが良く使いやすいが、お喋りなのが玉に瑕だった。

ミシンをかけている間も、彼女たちは実によく喋る。
「あらダメよ、もっと丁寧に縫わないと」
「このシルエットは流行遅れじゃない? 今はもっと細身の方が――」
やかましい彼女たちのお喋りを聞き流しながら、私はスーツを縫い上げた。完璧な仕上がりだ。彼女たちもどこか誇らしげである。

そうしておしゃべりな待ち針たちは、また新たな注文が入るその時まで、裁縫箱の奥で眠りにつくのだ。
ファンタジー
公開:26/01/13 22:01
更新:26/01/13 22:04

ととまとまと( 東京 )

文章を書く練習をしています。

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