たらい

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正月も一週間経って近所の神社に行った。これでも初詣。人が少なくて参るのにいい。まだ出ている屋台を見てゆくと外れた所に青いたらいがある。道に敷いたシートに男が座っている。一回500円の貼り紙。足を止めると男が「たらいの水に顔を漬けるとみたいものがみられる」という。
たらいにはなみなみと水が張ってある。暇つぶしにとワンコインを払った。身をかがめてたらいに顔を近づける。冷たそうな水に思い切ってざぶりと顔を入れた。目を開くとたらいの青い底がゆらゆらとしてそのなかに像がみえる。あ、彼女だ。彼女に間違いない。若い。黒髪に小麦色の肩が眩しい。十数年ぶり。付き合って喧嘩して別れた。水のなかで彼女は微笑む。胸元を手で隠すように腕を組んで。水着を着ているのかすらりとした肢体。もっと下の方を見ようとしたところで息が続かず苦しい。がばりとあげた濡れた顔で、続きをみたい、と言うと「一人一回かぎり」と男に言われた。
その他
公開:26/01/08 17:29

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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