形見

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 私はどうせ虫に生まれ変わるだろうから、と言って死んだ母の形見は、殺虫剤だった。私はその殺虫剤を、物置の隅にしまっておいた。ある日、庭に出た夫が、私を呼んだ。夫が指さす方を見ると、形見の殺虫剤の缶の傍らに、一匹の虫がいた。虫は私を見つけると、私の足元に、すがりつくように、まとわりついてきた。私は殺虫剤を手に取ると、虫に向かって噴射した。虫は死んだ。夫が、お義母さんかい、と尋ねてきた。私は、わかんない、と答えた。
ホラー
公開:25/12/28 06:31

六井象

短い読み物を書いています。その他の短編→ https://tomokotomariko.hatenablog.com/

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