テリアさん @012

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部室でラジオをきいていたときだった。知らない曲が流れた。感じとしては、だいぶ昔の曲。年代はわからない。

ふとテリアさんを見ると泣いていて、ぼくはひどく、けれど静かにあわてた。

テリアさんは、ぼくの視線に気がつき、

―やだあ、もう、見られちゃったあ

とおどけてみせた。

テリアさんと一緒の駅までの道。いつもしゃべりっぱなしのテリアさんがその日は無言で、ぼくも無言で。それに耐えかね、無理に、ぼくは話した。

―夏に、冷房と間違えて暖房入れちゃったことあってさ、冬に、冷房入れちゃったことはないけど

テリアさんは、笑ってくれなかった。
かわりに、

―何も聞かないでくれてありがと

と言った。

すでに駅に着いていることにぼくが気づかないでいたら、

―じゃあ、またね

と言ってテリアさんは逆方向のホームを上がっていった。

聞かなかったんじゃない。聞けなかっただけだ。




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青春
公開:25/12/26 03:09

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