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家主がいなくなり荒れ果てた庭に、一本の椿が生き残っていた。世話をする人がいなくなっても、季節が来ればたくさんの赤い花をけなげに咲かせ、となりに住まうわたしの目を楽しませてくれた。だからわたしは、壁の隙間からのぞく彼女をたたえるように、或いは励ますように声をかけていたのだった。
相手は物言わぬ植物だ。返事なんて期待していなかった。だから急に話しかけられた時は、驚きすぎてしばらくその場に立ちつくしていた。けれど椿はたしかにこう言ったのだ、「いつもありがとう」と。
いつの間にか雪が降り始めていた。後で知ることだけれど、初雪だった。騒々しい車の音が遠のき、歩く人が消え、静かな時間が訪れた。わたしは「どういたしまして」と答えて手を伸ばし、一輪の花をもぎ取って口に含んだ。
椿は間もなく枯れてしまった。しかし今は、わたしのこころのなかで咲いている。おそらく一生、枯れることがないはずだ。
相手は物言わぬ植物だ。返事なんて期待していなかった。だから急に話しかけられた時は、驚きすぎてしばらくその場に立ちつくしていた。けれど椿はたしかにこう言ったのだ、「いつもありがとう」と。
いつの間にか雪が降り始めていた。後で知ることだけれど、初雪だった。騒々しい車の音が遠のき、歩く人が消え、静かな時間が訪れた。わたしは「どういたしまして」と答えて手を伸ばし、一輪の花をもぎ取って口に含んだ。
椿は間もなく枯れてしまった。しかし今は、わたしのこころのなかで咲いている。おそらく一生、枯れることがないはずだ。
その他
公開:25/12/20 21:02
☆やコメントありがとうございます✨
作品のイラストはibisPaintを使っています。
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いちいおと