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年の瀬、町の掲示板にだけ現れる貼り紙がある。「年末大掃除請負います。家でも、心でも。
電話番号、住所も無い。ただ、玄関に古い箒を逆さに立てて置けば必ず行きます。と書かれている。
掃除が嫌いな訳ではないが、いつも掃除をすると思出し捨てられなかった手紙、割れたままの写真立て、心に染みついた過去。
箒を立てた夜、外で雪を踏む音と共に灰色の外套を纏った男が現れた。物は全て記憶の殻ですと告げ、男は黙々と掃除を始めた。
埃が払われるたび、捨てきれなかった後悔や痛みが静かに消えていった。
最後に割れた写真立てを差し出し、これは残しますかと聞く。私は頷いた。忘れてはならない痛みもあるからだ。
男は微笑み去った。
翌朝、家は変わらず古いままだったが、息がしやすかった。年が明け、掲示板の貼り紙は消えていた。
代わりに私の胸の中にだけ、静かな空白が残っている。次の年末、また箒を立てるかどうか、それは、私次第だ。
電話番号、住所も無い。ただ、玄関に古い箒を逆さに立てて置けば必ず行きます。と書かれている。
掃除が嫌いな訳ではないが、いつも掃除をすると思出し捨てられなかった手紙、割れたままの写真立て、心に染みついた過去。
箒を立てた夜、外で雪を踏む音と共に灰色の外套を纏った男が現れた。物は全て記憶の殻ですと告げ、男は黙々と掃除を始めた。
埃が払われるたび、捨てきれなかった後悔や痛みが静かに消えていった。
最後に割れた写真立てを差し出し、これは残しますかと聞く。私は頷いた。忘れてはならない痛みもあるからだ。
男は微笑み去った。
翌朝、家は変わらず古いままだったが、息がしやすかった。年が明け、掲示板の貼り紙は消えていた。
代わりに私の胸の中にだけ、静かな空白が残っている。次の年末、また箒を立てるかどうか、それは、私次第だ。
ファンタジー
公開:25/12/20 01:42
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gonsuke