センスの塊

「ネタの為にバラの花束を買ったよ」
真っ白なタキシードに身を包み、バラの花束を差し出してきた彼氏。
普段、作業着ばかり着ている彼だからこそ、その姿があまりにも似合ってなくて笑ってしまう。
自称お笑い芸人の彼。いつかステージに立つ為だと言っては私にネタを見せてくる。
正直、お笑いのセンスはない。でも、彼を前に笑ってしまうのは私が彼を愛しているからだろう。
それにしても大きな花束だ。一体何本あるんだろうと聞くと「１０８本ある」と答える。
彼はバラの意味に気付いた私の前に跪くと、ポケットから小さな箱を取り出した。
「ネタの為に指輪を買ったよ。僕とコンビを組んで、一緒に結婚式のステージに立って下さい」
笑みだけでなく、涙まで零れる。
彼と一緒に建つステージを想像する。皆が笑顔で祝福してくれる姿が目に浮かぶ。
前言撤回。彼にはお笑いのセンスはある。私を、いつでも笑顔にしてくれるという最高のセンスが。