センスを研ぐ

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「センスのかたまりだな」
毒舌部長が僕の企画書を見ながらおっしゃった。
「本当ですか。ありがとうございます!」
珍しく褒められたと喜んだのも束の間、渋い顔で企画書を突き返された。
「かたまりなんて素材に過ぎん。センスは鍛えて研ぎ澄ましてこそ役に立つんだ」
普通に貶されるよりグッサリきた。発想力を買われ、新商品の開発チーフに抜擢され、少々浮かれていたのかもしれない。
「研ぎ澄ませと言われても。鍛冶屋か研ぎ師にでも出せってか」
妙な想像をしてしまったのは、開発中の商品が『何でも研げる砥石』だからだ。金物ならいざ知らず、センスを研げる砥石があるはずもない。
今後も精進しろという部長なりの激励だろうが、言われっぱなしで退散するのも癪だ。ボツになった企画書を手に部長室へ引き返す。
「部長!先程の件ですが」
扉を開けた瞬間、鏡に向かって舌を出す部長と目が合った。
その手には開発中の砥石が握られていた。
その他
公開:25/12/22 14:43
ラジオ『月の音色』 月の文学館 テーマ:センスのかたまり

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.14執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

いつも本当にありがとうございます!

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