センスのかたまり
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会議室の机に置かれた一本の扇子を前に、重役陣が愛想笑いを浮かべている。
「やはりトップの会長がお持ちになるべきかと」
「儂はもう年だ。社長の君こそ持ちたまえ」
「ならば、次期社長である専務の方がふさわしいのでは?」
「私なぞとてもとても。むしろ常務こそ適任でしょう」
譲り合いという名の押し付けだ。皿に取り残され、誰も手を付けない料理を『遠慮のかたまり』と呼ぶが、これは言うなればセンスのかたまり。この扇子で頭をあおげば、たちまちセンスが磨かれ、弁舌も冴えるという代物だ。四人とも、内心喉から手が出るほど欲しいが、メンツが邪魔をして遠慮合戦になってしまう。
「会長のお知恵で模範を示していただければ」
「いやいや、そろそろ後進に道を譲らねば」
扇子なのに延々たらい回しにされている。会議室の空気は凍りつき、皆の視線は雪のように白けている。
当然だろう。センスを磨く扇子――ダジャレにしても寒過ぎる。
「やはりトップの会長がお持ちになるべきかと」
「儂はもう年だ。社長の君こそ持ちたまえ」
「ならば、次期社長である専務の方がふさわしいのでは?」
「私なぞとてもとても。むしろ常務こそ適任でしょう」
譲り合いという名の押し付けだ。皿に取り残され、誰も手を付けない料理を『遠慮のかたまり』と呼ぶが、これは言うなればセンスのかたまり。この扇子で頭をあおげば、たちまちセンスが磨かれ、弁舌も冴えるという代物だ。四人とも、内心喉から手が出るほど欲しいが、メンツが邪魔をして遠慮合戦になってしまう。
「会長のお知恵で模範を示していただければ」
「いやいや、そろそろ後進に道を譲らねば」
扇子なのに延々たらい回しにされている。会議室の空気は凍りつき、皆の視線は雪のように白けている。
当然だろう。センスを磨く扇子――ダジャレにしても寒過ぎる。
ミステリー・推理
公開:25/12/22 14:42
ラジオ『月の音色』
月の文学館
テーマ:センスのかたまり
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.14執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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創樹