赤い風船
2
2
真夜中の寺の本堂で、仏像と向かい合って座しているそれは、身体は坊さんだったが、頭部は、赤い風船だった。法衣の首の部分から、細長い紐が伸びていて、その先に赤い風船が揺れている。風のない夜だったが、風船が揺れているのは、坊さんの身体がかすかに震えているからだ。頭部が赤い風船の坊さんは、仏像と向かい合って、いつまでも座している。その震えは、だんだん激しくなってくる。やがて、寺の外の空が白みだし、ニワトリが鳴いた。頭部が赤い風船の坊さんははっとしたように硬直し、仏像に深く礼をすると、法衣の袖から一本の針を取り出した。それから間もなく、寺の近くを散歩していた老人が、パンッ、という音をかすかに聞いた。老人は立ち止まって、寺に向かって手を合わせると、散歩を再開した。
ホラー
公開:25/12/18 08:08
短い読み物を書いています。その他の短編→ https://tomokotomariko.hatenablog.com/
ログインするとコメントを投稿できます
六井象