明日に持っていくもの

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朝、目覚めたら記憶がなくなっていた。きっと一時的なものだろうと顔を洗う。鏡に映る顔が自分のものだと確信することはできたが、それ以外のことは何も思い出せない。
枕元にあったスマートフォンはパスワードがかかっていなかった。スケジュールやメモ、電話や通信履歴、SNSを見る。そこでわかったのは、俺が天涯孤独の身で、友人を持たず、休日も家から一歩も出ずに過ごしていたことだった。仕事はゲームプログラマーをしていたようだが、数日前に退職していた。メモには、人間関係と完成間近にして立ち消えになった企画への不満が残されていた。そしてゲームの世界で生きることを決心したらしい。
「⋯⋯そうか、ここは設計書のなかなんだな」
どうりで窓の外の景色が荒野なわけだと納得した。目の前に現れたパネルは、俺にタイトルを決めるよう促している。今の俺には何もない。だから『明日に持っていくもの』と名付けて、冒険に出ることにした。
ファンタジー
公開:25/12/12 09:02

いちいおと( japan )

☆やコメントありがとうございます✨

作品のイラストはibisPaintを使っています。

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