受信範囲

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街には、通知が多すぎた。

誰かの不幸。
誰かの努力。
誰かの怒り。
誰かの再出発。

画面を閉じても、
それらは残った。

古い端末の設定画面に、
見慣れない項目があった。

〈受信範囲〉

半径五メートル。
半径五十メートル。
市内。
全国。
世界。

説明はない。

範囲を狭めると、
電車の遅延も、
遠い災害も、
知らない声も届かなくなった。

人々は、
息がしやすくなったと言った。

範囲を最大にすると、
音は距離を失った。
老いも、事故も、戦争も、
同じ近さで鳴った。

画面は熱を持ち、
指先が滲んだ。

設定画面の下に、
一文だけ表示された。

〈受信範囲を設定してください〉
SF
公開:25/12/14 17:24

問い屋

一瞬のズレを物語に仕込み、
読み終えたあとに問いが残る作品を書いています。
答えが出ても、出なくても。
あなたの一行が、この物語の余白を広げます。

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