サンターン

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長年サンタクロースとして働いてきたが、定年退職して、故郷に帰ることにした。先輩サンタによれば、退職後はたいてい農業や観光業に携わるそうだ。私の田舎は農業をするには広すぎるし、観光目当てに人がやってくるところではない。日照時間の短い、静かな港町である。特別やりたいことはないし、当面は趣味のケーキ作りをして、のんびり過ごそうと思いながら荷造りした。
汽車の見送りには、たくさんの同僚が集まってくれた。しかし苦楽をともにしたトナカイのビビは姿を現さなかった。急に決めた帰郷を彼はきっと怒っているのだ。既に一カ月会っていない。
涙ながらの別れを交わし、車両に乗り込む。3回の乗り継ぎと船便ですっかりくたびれながら故郷の地に降り立った。向こうからやってきたビビに気づいた時は言葉を失った。
「俺の寝床を用意しやがれ、じじぃ」
懐かしい彼の悪態。私は荷物を置いてビビのもとに駆け寄った。
その他
公開:25/12/04 08:02

いちいおと( japan )

☆やコメントありがとうございます✨

作品のイラストはibisPaintを使っています。

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