消えゆく商店街

古いビルの地下商店街が、老朽化のため近日中に閉鎖されるという知らせが流れた。小さな頃から慣れ親しんだ店々は、最後の謝恩セールでいつもより明るく見えたが、その賑わいの奥には別れの気配が静かに漂っていた。
入口には大きな黒板が置かれ、思い出を書いてくださいと白いチョークが添えられている。

人々は足を止め、幼い頃に迷い込んだ薄暗い通路のことや、給料日に買って帰った総菜の匂い、店主が気さくに声をかけてくれた温かな時間などを思い出しながら、文字や小さな漫画を描き込んでいく。
その黒板には人それぞれの記憶が重なり合い、まるで商店街そのものが最後に呼吸しているようだった。
私も一つの絵を添えながら、この場所が長い年月を通して人々の暮らしや心を支えてきた不思議さを静かに噛みしめた。
やがて黒板は温かな物語でいっぱいになり、消えゆくはずの商店街が、むしろ誰の心にも残り続けるかのように優しく輝いて見えた。