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嫌な顧客に呼びつけられ、土下座謝罪までさせられた帰り道、駅でタクシーを拾った。とにかく全身全霊くたびれていた。たとえるなら雑巾を扱うかのごとく体中の水分をしぼり取られたかのようだ。コンビニで買った清涼飲料水を勢いよくあおり、半分ほど飲み干した。タクシー運転手の異変に気づいたのはその時のことだ。
ルームミラーに映る運転手が泣いている⋯⋯しかも号泣である。放っておいてもよかったのだが、赤信号で止まるたびに聞こえてくる嗚咽に耐えられなくなり、ついに声をかけた。
「なにかあったんですか?」
「いや、お客さんに話すほどじゃ⋯⋯」
「気になりますよ」
「じゃあお話しますけどね⋯⋯」運転手はもったいぶってから続けた。「秋が短かったのが悲しいんですよ」
「えっ、秋が!?」
「ほら、話すほどのことじゃないでしょう⋯⋯」
必死で笑いをこらえ、目的地の手前で下車した。俺の悲しみはどこかに吹き飛んでしまった。
ルームミラーに映る運転手が泣いている⋯⋯しかも号泣である。放っておいてもよかったのだが、赤信号で止まるたびに聞こえてくる嗚咽に耐えられなくなり、ついに声をかけた。
「なにかあったんですか?」
「いや、お客さんに話すほどじゃ⋯⋯」
「気になりますよ」
「じゃあお話しますけどね⋯⋯」運転手はもったいぶってから続けた。「秋が短かったのが悲しいんですよ」
「えっ、秋が!?」
「ほら、話すほどのことじゃないでしょう⋯⋯」
必死で笑いをこらえ、目的地の手前で下車した。俺の悲しみはどこかに吹き飛んでしまった。
その他
公開:25/12/05 22:44
☆やコメントありがとうございます✨
作品のイラストはibisPaintを使っています。
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いちいおと