焦げる苺

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 そのケーキ屋は、幼児用墓地の近くにある。夜、閉店時間間際のその店のショーケースに、いくつかのケーキが売れ残っていると、その売れ残ったケーキに、いくつかの人魂が集まってくる。死んだ子どもたちの人魂だ。レジに立っていた若いバイト店員がそれに気づき、店長を呼ぶ。厨房から出てきた店長は、小さな箒を取り出して、人魂たちを追い払う。二、三週間に一度、そんな光景がその店では繰り返される。ある冬の日、売れ残ったケーキに、小さな人魂が寄ってきた。バイト店員は店長を呼んだ。店長はその人魂をじっと見て、ショーケースからショートケーキを一切れ取り出し、人魂の前に置いた。「あれっ、追い払わないんですか」「これ、たぶん、うちの子だ」店長は何とも言えない表情で人魂を見つめている。「違うかなあ」人魂がケーキに近づき、苺の焦げる匂いが店の中に漂い始める。
ファンタジー
公開:25/12/02 06:40

六井象

短い読み物を書いています。その他の短編→ https://tomokotomariko.hatenablog.com/

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