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赴任の朝、私は記録席に座った。広間には古い布告が積まれ、黒王の声は意味だけ正しく、音がわずかに歪む。老騎士の礼は同じ角度で続き、若者の席は初めから空白だったように思えた。
机の端に銀の板片があった。刻みは乱れ、文にも紋にもならず、裂け目だけが紙より硬い光を放っている。誰の物か尋ねようとした感覚ごと、喉の奥で消えた。
異を唱えた名が記録から抜けると聞き、過去帳を見たが、痕は皺と区別がつかない。影落ちという呼び名だけが残る。
夜、板片が揺れ、裂け目の光が指を撫でた。形にならぬ線が紙面をなぞる。翌朝、席札の名が薄く、書き直しても筆跡だけが沈む。
裂け目は昨日より馴染む。あれは文字でなく、消える順序を示す線だったのか。
礼は続き、音は歪む。影落ちの痕の隣に、空白だけが静かに増えた。
机の端に銀の板片があった。刻みは乱れ、文にも紋にもならず、裂け目だけが紙より硬い光を放っている。誰の物か尋ねようとした感覚ごと、喉の奥で消えた。
異を唱えた名が記録から抜けると聞き、過去帳を見たが、痕は皺と区別がつかない。影落ちという呼び名だけが残る。
夜、板片が揺れ、裂け目の光が指を撫でた。形にならぬ線が紙面をなぞる。翌朝、席札の名が薄く、書き直しても筆跡だけが沈む。
裂け目は昨日より馴染む。あれは文字でなく、消える順序を示す線だったのか。
礼は続き、音は歪む。影落ちの痕の隣に、空白だけが静かに増えた。
ファンタジー
公開:25/12/02 18:02
更新:25/12/02 20:47
更新:25/12/02 20:47
#ダークファンタジー
一瞬のズレを物語に仕込み、
読み終えたあとに問いが残る作品を書いています。
答えが出ても、出なくても。
あなたの一行が、この物語の余白を広げます。
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問い屋