大切な時間

4
3

おばあちゃんは90歳になる。一人で郊外の一軒家に暮らしている。
仕事と仕事の合間を縫って、私はおばあちゃんに会いに行く。
「よく来てくれたね」
「元気?」
「おかげさまでとても元気よ」

客間のテーブルでノートパソコンを開く。カタカタとキーボードを打っていく。なぜだろう。自宅よりもずっと作業がはかどる。ふと顔を上げると、日当たりのいい廊下でおばあちゃんが編み物をしている。
「そろそろお茶にしようか」
「うん」
お土産に持ってきたクッキーを一緒に食べ、他愛もないおしゃべりをする。そしてまたそれぞれの作業に戻る。
夜は早めに床に就く。清潔な布団にくるまり熟睡する。

特別な事は何もない。重い感情も抱かない。ただ淡々と、けれど愛おしく、時間が過ぎていく。

翌日、別れの挨拶の後、おばあちゃんは先に家に入って行く。きっと編み物の続きをするのだろう。
私もまた前を向いて、自分の生活に戻っていく。
その他
公開:25/11/26 23:28

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容