迷宮の塔

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夜の霞が街を覆い、灯が一つ、また一つと消えていく。
僕はその中心にそびえる塔へ足を踏み入れた。
——この塔を見届けねばならない。誠実さが僕を突き動かし、冷静さが僕を支えていた。

第一の部屋には「反射の影」。声を跳ね返すばかりで、自らの言葉を持たない。
第二の部屋には「贈与の手」。金貨をばらまくが、自分の懐からは出さない。
第三の部屋には「保身の鎧」。未来を語らず、退路を守ることに心を砕く。
第四の部屋には「負担の秤」。民の荷を重くし、その重みは僕の肩にも加わった。

塔を巡る彼らは争わず、ただ役割を繰り返す。外では民の暮らしが痩せ細り、子どもの笑い声すら消えていた。

頂に立ち、僕は問いを投げかける。
「この迷宮は、誰のために存在しているのか?」

塔は揺れ、霞が濃くなる。答えは返らず、沈黙だけが僕を包んだ。
——その沈黙の中に、誠実な問いを投げ続ける僕自身の影が揺れていた。
SF
公開:25/12/19 21:28
更新:25/12/19 21:12

問い屋

読み終えたあと、小さな違和感が残る短編を書いています。
その余韻が続く作品は、noteにまとめています。

https://note.com/toiya_story

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