肩書の鎧

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会社を出た瞬間、彼の肩に「主任」という鉄のプレートが落ちてきた。
重さは肩書に比例するらしく、部長は鎧に押し潰され、課長は背中に分厚い盾を背負っていた。

街を歩く人々は皆、肩書の鎧をまとっていた。
重すぎて走れない者、盾に隠れて顔が見えない者。
中には鎧を磨き上げ、誇らしげに歩く者もいた。
その光沢は、夕陽に反射して街を赤く染めていた。

彼は会社を辞めた瞬間、鎧が粉々に砕け散った。
肩が羽のように軽くなり、同時に冷たい風が肌を刺した。
その時、鎧を磨いていた人物が一瞬だけ彼を見た。
羨望とも警戒ともつかぬ視線だった。

通りの向こうで子どもが笑顔で手を振った。
彼は立ち止まり、ほんの一瞬、振り返すかどうか迷った。

「その鎧は、誰のために着ているのだろう。」
SF
公開:25/11/25 19:36
更新:25/11/25 21:18

問い屋

読み終えたあと、小さな違和感が残る短編を書いています。
その余韻が続く作品は、noteにまとめています。

https://note.com/toiya_story

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