身から出たワサビ

6
6

「身から出た錆」という言葉があるが、身からワサビが出るようになってしまった。それで医者に来た。
「ワサビに恨まれるようなことは?」
「実は……、チューブわさびを開封したものの使い切れず、捨ててしまいました。3回連続で」
「それだ」
医者はカルテを閉じ、深刻な顔で言った。
「ワサビはね、意外と情が深くてね。捨てられた悔しさ寂しさが人体に残留した香気成分と結びつくと……ほら、こうなる」
白衣の袖口に、ちょこんと緑色のものが。
「先生も?」
「ええ、“おろし金に残ったワサビを放置した罪”です」

互いにしんみりしていると看護師が顔をのぞかせた。
「先生、例の“からし”の方が……」
医者は立ち上がり、
「多いんですよ、この手の案件。あなたも帰ったら、まずは謝って。きちんと使い切るという誠意を見せれば、ワサビも引き下がりますから」

家へ戻って、冷蔵庫のチューブに謝り誓った。今度こそ、使い切ろう。
ファンタジー
公開:25/11/24 23:45
更新:25/11/25 11:28

藍見サトナリ

ご覧くださってありがとうございます。
学生時代、文芸部に所属して短いお話を書いていました。あれからウン十年、仕事、家事育児に追われて自由な創作から離れていましたが、心のリハビリ(ストレッチ?)のために登録。
//日々の生活が追ってくるため、ログインが不定期になります。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容