名画でショート083『両替商とその妻』(クエンティン・マサイス)

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両替商にとって、この世は金が全てだった。
本日の利益を積み上げ、偽金が混じっていないか、金貨の重さを一枚ずつ慎重に測っていく。
隣にいる妻は、祈祷書を開いているが、こころここにあらずで、視線は夫の手元を見つめている。
夫は金貨を見て、妻も金貨を見る。となりにいるのに、視線が交じり合うことはない。
しかし、これこそ二人の幸せなのだ。
周囲がなんと言おうと、あの世に金貨は持っていけないと忠告されようと、これが夫婦の幸せなのだ。
幸せの定義はだれにも決められない。決めるのは、自分自身。自分が幸せならば、他人の誹謗中傷など気にしても仕方がないではないか。
両替商の夫婦は、今日も金貨を眺め、測り続けている。お互いの幸せのために。
その他
公開:25/11/26 17:38

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