浮かばれない者たち ― 掲示板の村

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瘴気に沈む村に、私は暮らしていた。
朝ごとに掲示板へ足を運び、一文を刻まされる。
「助けよ」と「入るな」が並び、血のように滲む。

隣家の老人が「助けて」と書いた翌朝、姿を消した。
役人は「規則通りだ」と言うだけで、誰も探さない。
井戸の水面は黒く揺れ、村は影に覆われていく。

私は恐怖に震えながらも、最後に「ありがとう」と刻んだ。
その瞬間、瘴気が晴れたように見えた。
村人たちの顔が一瞬だけ浮かび、笑い声が響いた――。

だが次の瞬間、文字は歪み、「消えろ」と変わった。
声は吸い込まれ、私の存在も掲示板に溶けていく。
救いはなかった。ただ一文が増えただけだった。

村そのものが掲示板となり、
浮かばれない者たちの影が、
訪れる者を待ち続けていた。
ホラー
公開:25/11/22 20:36
更新:25/11/26 19:59

問い屋

一瞬のズレを物語に仕込み、
読み終えたあとに問いが残る作品を書いています。
答えが出ても、出なくても。
あなたの一行が、この物語の余白を広げます。

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